いやしのプチ童話集-動物編無料で読めるかわいい動物達の短い童話集です。温かくて楽しいお話になっております。ご家族でどうぞ!

第三話「蜂タローと大先生」

お花畑を飛ぶタローは、とても優秀な蜂ですが、ちょっとだけ、足りないところがあります。何が、足りないのでしょう?

タローの好きな花畑

蜂(はち)のタローは、美しい花から花へとんでは、蜜(みつ)をすって夏をすごします。花さがしの名人のタローにとっては、どんな花も知らないものはありませんでした。頭のなかには『蜜味大百科辞典』(みつあじだいひゃっかじてん)が、あります。だから、なかまの蜂たちから、うらやましがられ、そんけいされる小さな先生でした。

ことしも、美しい花から香りのよい蜜(みつ)を、たくさん味(あじ)わいました。でもタローは、ほんとうにおいしいな!と、おもう蜜には、まだ会えませんでした。そこで、タローは考えました。
「よ~し、夏が終わるまえに、かならず!一ばんにおいしい新しい蜜をみつけるんだ!」。でも、その方法(ほうほう)は、わかりませんでした。そこでタローは、花さがしのために役に立つ『ジグザグ・ダンスとシーソー飛び』を、おしえてくれた、蜂の大先生をたずねることにします。

大先生は、タローの話をだまって、きいていました。そして、なにも言いません。でも、さいごにただひとつだけ、黒い目かくしマスクを、タローにわたします。大先生は「目かくしマスクをしたままで、花をえらびなさい。そのままで蜜(みつ)を、のんでごらんなさい!」と、言うだけでした。

タローは、なっとくがいかなくて、ふまんといかりを、だいて家へ帰ります。
「こんな目かくしマスクが、なんの役にたつんだろう。こんなものをつけたままで、飛んでいる蜂なんか、世界じゅう、どこにもいないよ。ぼくが『蜜味大百科事典』と、みんなによばれていることが、がまんできなくって、いやがらせをしてるにちがいない。」

それでも、タローには、ほかのやりかたは思いつきません。しかたがないので、しぶしぶと大先生の言われたとおりに、することにします。黒い目かくしマスクを目につけて、香りだけをたよりにして、ジグザグ・ダンスとシーソーとびをしながら、とびたちます。

ふまんだらけのままで出発(しゅっぱつ)です。そう、この日、タローは、世界ではじめての、目かくし蜂になったのです。秋の空をとんでみると、なにも見えないのに、きもちがいいのでした。かぎなれた美しい花たちの香りも、そこここへに、ただよっています。そのなかを、タローは自分のねがっている香りをクンクン!と、アンテナを上げて、さがし続けました。なかなかみつかりません。風もふきはじめました。

「おもったとおりだ。目かくしをしていたら、なにも見つけられるはずがないんだ!」あきらめかけて方向(ほうこう)を、変えようとします。でも、大先生の顔を、にくらしく思い出したその時です。「おっとっと、この香りはなんだ!なんとステキな香りなんだろう。」まっくらのマスクの中で、タローがねがっていた香りの花が、におったのです。

だんだんおいしい香りに近づいていきます。そして、ついに香りのもとにたどり着きます。やっぱり、タローがさがしもとめていたすてきな香りです。大先生の指示(しじ)どおり、目かくしをしたまま花におり立ち、蜜をたっぷりいただきました。

「おいしい、おいしい!こんな味(あじ)は、はじめてだ。」タローは、どうしても、花のすがたが見たくなります。大先生のことばを、わすれてしまいます。「どんな花なのだろう?どんな色だろう?」わくわくドキドキしながら目かくしマスクを、じぶんの目からはずします。

そして、足もとの花のかたちを見てびっくりです。「えーッ!」タローは、おどろきのあまり、羽がぷるぷるとふるえました。だって!それはタローにとって「すがたもかたちも悪くて色もきれいではないなあ。」と思っていた花だったのです。それは、金木犀(きんもくせい)の花でした。これまでは、とおくから見ていただけで、目もくれなかった花なのでした。

タローは、自分が、かたちや色だけで、花えらびをしていたことをはんせいしました。蜂の一族(いちぞく)としては、基本(きほん)のなかの基本を、無視(むし)していたのです。花の世界の味(あじ)も香りもぜんぶ知ってるつもりでしたから、大変なショックでした。

みんなから、先生とよばれていい気になっていた自分が、はずかしくなってきます。その時になって、ようやく!蜂の大先生が『目かくしマスク』をくれたわけを知ったのでした。「そうだったのか・・・やっぱり、あの大先生は気がついてたんだ。ぼくは、まだまだ、かなわないや!」と、大先生へのふまんが、感謝(かんしゃ)と、尊敬(そんけい)に変わりました。

蜂の大先生に 、すぐにお礼を言いたくなったので、急いでもどることにします。帰りは、やはり大先生がおしえてくれた『スーパージェット飛び』です。タローにとって、帰りの秋の空は、とくべつにさわやかでした。

こうしてタローの「蜜味大百科辞典」(みつあじだいひゃっかじてん)に、金木犀(きんもくせい)の花が、さいごにくわえられたのでした。やがて、タローは、ますます仲間(なかま)から、そんけいされるような先生になりました。それから、金木犀(きんもくせい)の花は、ゆうめいになりました、と。

「蜂タローと大先生」おわり

タローは、ちゃんと物わかりがよくなって、よかったですね。長く生きてきた目上のなかまの話に、耳をかたむけるのは、いいことですね。自分のために、なることだからですね。そして、なんでも見た目だけで、きめつけないようにしようね。本当は、知らないことが多いのだものね。

written by 徳川悠未