いやしのプチ童話集-動物編 無料で読めるかわいい動物達の短い童話集です。温かくて楽しいお話になっております。ご家族でどうぞ!
秋が近づき、赤くいろづきはじめた柿(かき)の、ぼうやが、しんぱいしはじめました。なぜなら、まわりにはたくさんのカラスが、じぶんを食べようとまちかまえているようだからです。でも、ぼうやのしんぱいもよそに、日ごとに赤みがつよくなってきます。
そこで、柿(かき)のぼうやはおもいました。
「このままではいけない!なんとか、カラスとたたかわなければならないぞ。そうしないと、ぼくは食べられてしまうんだ。」というのです。そこで、ぼうやは、まい日、小さなちえをはたらかせて、あれやこれやと戦略(せんりゃく)をかんがえてみましたが、いいほうほうがうかびません。そうしているうちに、すっかり赤くなってしまいました。
そんなある日でした。一わのカラスが柿のえだにとまり、口ばしで赤い実(み)になっているぼうやの頭のはしっこを、ちょっとだけつつきます。そのとたん!おどろいたことに、カラスはそのまま急こうか(きゅうこうか)して、じめんに落ちて気絶(きぜつ)してしまいました。
柿のぼうやは、歯(は)をくいしばりながら「カラスの死んだふりなんか、ぼくはしんじじるものか!ぼくは、だまされないぞ!」と、じめんにいるカラスをにらみつづけて、あいかわらずたたかいに備(そな)えています。
しばらくして、カラスは、目をさまし、空へ逃げるようにして飛んでいきました。ぼうやは思わず「やった~!わ~い、ぼくが勝ったんだ!」と、勝利(しょうり)の声を上げます。
そのとき、ぼうやの声を聞いたおかあさんの柿の木が言いました。
「おやおや。ぼうや!ぼうやは、しぶいからカラスには食べられないのだよ。だから、なにもしんぱいはいらないんだよ。」じぶんが『しぶ柿』(しぶがき)だと、生まれてはじめてしった柿のぼうやは、がっかりしてしまいます。
「な~んだ。ぼくは、しぶかったんだ。カラスさえも、あいてにしないしぶがきだったんだ。あんなになやんだり、ちえをしぼったりして、たたかったのに、むだだったんだ。クシュン!」
でも、きかんぼうのしぶがきぼうやは、まけません。すぐに立ちなおります。
「いいや~、カラスに食べられないんだから、あんしんして赤くなれるんだもん。ぼくは、しぶがきであることを、ほこりに思うことにするさ!」
ぼうやのことばを聞いたおかあさんの柿の木が、にっこり!と、ほほえみました、と。
「しぶ柿とカラス」おわり
しぶがきの坊やは、とても無邪気(むじゃき)で、かわいいですね。お母さんもどんなにかほほえんでいることでしょう。でも、ひとりずもうは、ちょっとだけ時間のむだですね。それに、うぬぼれははずかしいですね。坊やは、まだ小さい子どもだから、いいけどね。
written by 徳川悠未